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[感想メモ]ゲームリプレイ小説として、或いはそれを越えた存在としての小説版『片道勇者』

[感想メモ]ゲームリプレイ小説として、或いはそれを越えた存在としての小説版『片道勇者』

SmokingWOLF氏作の強制横スクロールRPG『片道勇者』の小説版、『片道勇者 滅びの闇と繰り返す英雄』を読了しました。

わたくし原作の片道勇者はプラス版も含めて100時間近くプレイしてまして、達成度は100%。かなりハマってやり込んでました。

そんなわけでノベライズにも期待していましたが、純粋に良質なファンタジー小説として楽しめたのはもちろん、やはり「あっここゲームのあの要素を文章化したものだ!」みたいな原作ファンがニヤリとできる要素もたくさん散りばめられていて、ゲームリプレイ小説のような趣でも楽しむことができました。その一方で、ゲームではシステム上表現できない、小説ならではの内容も趣深いものでした。

というわけで、主にそのあたりでとくに興味深かった所を引用しつつ、感想など語っていきたいと思います。基本、原作ゲームのプレイヤーならまあネタバレも何もないよね、というスタンスで終盤近くまでネタバレしまくるので、それでもよければどうぞ……。

その前に全体の感想を軽く

僕は前述の通り、既に原作にどっぷり浸かっているので客観的な判断は難しいのですが、小説版は一応、原作ゲームをプレイしていなくても内容についていけないということはない、独立したファンタジー小説として成り立っているとは思います。

原作ゲームでは実のところ、周回プレイの世界観上の位置付けというのははっきりとはなされていないのですが(……の、はず。死亡からの再スタートで直前の記憶が僅かにあるような描写はありますが)、小説版では異なる世界への転生を繰り返しながら少しずつ世界の真実に迫っていくという展開に落とし込まれています。これは自分の作品解釈とも一致していて小説版にもすっと入り込めました。

作品紹介から引用しますが、

輪廻の中で幾多の出会いと別れを繰り返し、やがて勇者は世界の真実に辿り着く。

これは終わりなき戦いに挑む勇者と仲間たちの、次元を超えた絆の冒険譚!

これがね、以前「書籍風にゲームのキャッチコピーを考えよう」みたいなTwitter上の企画で自分が書いたのとキーワード(輪廻、真実、終わりなき/終わらぬ)がかなりかぶってて笑っちゃったくらいなんですよ。

#書籍風ゲーム紹介
片道勇者
闇に飲まれゆく世界。救えない人々。魔王を倒しても、待っているのは次の世界。終わらぬ輪廻に心が倦む頃、ひとつのイレギュラーから「君」は真実に触れ、……そして世界は反転する。片道勇者――これは幾多の終末を流転しながら「せかい」を解き明かしていくシステム。

— 友次郎/ユージン (@finalbeta) May 12, 2014

また、僕が個人的に好ましく感じたのは、ゲーム原作小説ではありますが文体等に「ゲームもの」っぽさはなく、昔ながらのファンタジー小説らしい風格を感じた点。ロードス島戦記あたりを想起したりしました。とはいえ主にコメディリリーフを担う妖精イーリスあたりは今時っぽい言葉も程々に使ったりして、固すぎないようバランスは取られている印象ですが。

「ゲームノベライズ作品」という枠の中では、メインターゲットの年齢層はやや上(十代よりは二十代以降メイン?)という印象を受けました。「PCでゲームをする層」というのがまずスマホ・コンシューマも含めたゲームプレイヤー全体の中では(今となっては)若干上寄りになるのかなと考えると、ある意味最適化されているのかもしれません。

なんか微妙に話が逸れた気もするな?とにかく作品のクオリティとしても原作の反映ぶりとしても、原作ファンとして納得の内容になっていた、というのが有り難いなあという話でした。著者の紅仗直先生、本当にありがとうございました。後書き読んだらなんと元々片道勇者のプレイヤーだったらしいぞ!

さておき、ここからは具体的な内容に触れていきます。

第1章(剣士)

闇に飲まれ、魔物に襲われる村から小さな女の子だけは助け出し……たかと思いきや女の子も闇の影響で異形に変わってしまい、主人公がそれを斬る、という展開から始まります。ある意味世界観のチュートリアル。主人公に過去の記憶がない、というのも、ゲームを始めていきなりこの世界に降り立ったプレイヤーとシンクロするものでした(これがすでに数周目の可能性も考えましたが、のちにこれこそが最初の冒険であったことが語られます)。

 ひとつ、ふたつ、みっつ──十を超えてから数えるのをやめる。
 山賊だ。
 それも、かなり統率された動きをしている。

(中略)

 狂たる剣技。かつて、ぼくの戦いぶりをそう評した者がいた。
 間違いではない。
 誰かの命を奪うことに心が傷つかないようにと、闘争の最中、ぼくは剣に己を預ける。

山賊イベント!そして剣士スキル「ベルセルク」発動してますね……?このあと「いつまでベルセルクやってるのさ!?」というイーリスのツッコミも入るのでここは非常にわかりやすいです。(もちろんスキル名を挙げたメタネタというわけではなく、主人公の狂戦士っぷりを見ての評でしょう)

まあ、元ネタほどの反動がなかったりと完全再現ではありませんが、使い所(多くの敵に囲まれ逃げ切れない)なども含め「わかる~」って感じですね。この後の「いつの間にか左腕を斬られていた。痛みは感じない。」という描写はLIFE自動回復を少し違う形で表現したのかなとも思ったり。

ところでこれは今回の記事の主旨とは全然関係ないスーパー余談なのですが、

 剣は凶器。纏わる技法は畢竟──殺人術。どれほどの綺麗事を並べてもそれが真実だ。

これ、漫画「るろうに剣心」の“剣は凶器 剣術は殺人術 どんな綺麗事やお題目を口にしてもそれが真実”のパロディ……ですよね?どう考えても偶然の一致ってレベルじゃないよね?? 著者さんるろ剣好きなのかな。個人的に魂の作品というか、好きという言葉では足りない、人格形成に影響を与えたレベルでハマった作品なので、ここでぐぐっとこの作品への好感度も上がっちゃったりしました。

「実は、この前の街で買っていただいた素材を使って、こんなお薬を作ってみたのです!」
 取り出したのは二つのアンプル。
 液体が入っているようだが、薄暗いために色までは分からない。
「なんとですね、これを投げて当ててしまえば、たちどころに相手の敵意や戦意は無くなって、仲良しになれてしまうという優れものなのです!」

おっキーアイテム来た!となりますが、ちょっとしたハプニングを経て

 ぼくとイーリスは互いに顔を見合わせ頷き合った。誰とでも仲良しになれるという妙な薬を二本、ネムリから貰ったが、どんな効果があるか分からないので使うことは止めておこう──と。

……流石に初周からいきなりアレはないな、とも察したのでした。

 闇の一部を溶かしたような漆黒のローブに、フードの隙間から零れる金砂のように美しい長髪。
 そして、わずかに窺える端整な顔立ちと流麗な身体の輪郭から、相手が女性であることを悟る。

原作では立ち絵が表示されて(普通に進めてればかなりプレイした後になるでしょう)初めて、プレイヤーは魔王が女性だったのを知る……というちょっとしたフックになっていましたが、小説では初遭遇で普通に描写。メディアの違いとして興味深いところです。主な読者層にとっては既に自明なので無理矢理技巧を尽くして引っ張るようなところでもないですしね。

小説「空の境界」で一人称“オレ”の両儀式の性別が女性なのが1話のラストで明かされるというちょっとした叙述トリックが、アニメ版だと流石にやりようがなかった件の逆パターンだな~と思ったりしました。

 砦や迷宮探索において最も厄介なのは、その実、内部に巣くう魔物や、設置された罠ではなく、闇が近づくまでに脱出しなければならないという精神的な負荷と、限られた時間の残酷さなのだ。

「あっもう出口まで行く余裕ない!壁壊すしかねえ!!うわぁぁぁぁぁ!!」

「おいおい……ってことは、俺たちはとんでもないお宝に巡り合えたってことじゃねぇのか?」
「王女様をお宝扱いって、どこの怪盗だよ、あんたは……」

自らを聖武器への鍵と語るフリーダ王女への傭兵パンティへの反応と、それに対するイーリスのツッコミ。これまた本記事の主旨からはズレますが、そしてこっちはそこまで確証ないので勘違いならスミマセンが、「カリオストロの城」のパロディ……かな……?

さておき、初周は大きな犠牲を払いつつ魔王を倒して終了。

第2章(騎士)

「繰り返し見る夢」として、前周の内容が朧気に語られます。そしてそれに導かれるかのように、主人公は王国の騎士に。

 突如として眼前に舞い降りたのは可憐なる小妖精。
 実際に目にするのはこれが初めてだったが、その存在は多くの書から知識として得ていた。
 故に、驚愕したのはイーリスを目にしたからではない。
 彼女を前にしたことで、自分自身が理由もなく涙を流していたからだ。
「ちょ、ちょっと! どうしていきなり泣いてるの!?」
 わからない。
 だが、胸奥に得体の知れぬ懐かしさが、違えようもないほどに充ち満ちていた。

イーリスとの(二度目の)出会い。無自覚な転生者のこういうシーンいいよね……。今周、全体にわたりこの「知らないはずなのに……」的な展開が散りばめられておりぐっと来ます。

 振り返ると、階下の近くに見慣れぬ女性が立っていた。
 若く、神秘的な雰囲気を纏っている。
 このような者が城内にいただろうか?
「いよいよ、新たな旅立ちの日を迎えたのですね。今こそ預物をお返しいたしましょう」 まるで旧知の仲とでも言うように親しげに語りかけてくる。
 しかし、面識はないと断言できる。
「覚えていないのも無理からぬこと。未だ記憶の引き継ぎが上手くいっていないのでしょう」

次元倉庫!次元倉庫だ!! 描写はありませんが、魔王を倒した前周の主人公がどこかで託したのでしょう、装備品などと共に「奇妙な液体を収めた二本のアンプル」も。キーアイテム引き継ぎ!

「ならばその夢想を殺せ。お前はお前にしかなれぬ。理想の剣士は理想の騎士たり得ない」
「何が言いたい?」
「……身の程を知れと言っているのだ。貴様には良き騎士となる素養があるが、剣のみに生きる器ではない。誰かを護らんとして騎士になったのならば、護り手としての戦い方で極端を目指せ」

騎士でありながら、幼い頃から見ている剣士としての夢に引っ張られて戦い方に歪みが生じている主人公への、デュークガルツの忠告。転生ものならでは、小説版ならではの描写がアツい。

(前略)ここで仕留めなければ勝機はない。確実にトドメを刺してみせる。
 ──そう思った瞬間、ふいに手が止まった。
 殺すべきではない、と。
 本能が告げていた。
 有り得ない衝動だった。
 見ず知らずの獣──それも魔物と化した凶暴なキラーハウンドへ俺は情けをかけていたのだ。

(中略)

「未熟者がッ!」
 デュークガルツの怒声と共に、のしかかっていたキラーハウンドの首が斬り飛ばされていた。
「あ……あぁ……ッ」
 命を助けてもらったというのに、俺の胸奥には筆舌に尽くしがたい哀しみが去来していた。

(中略)

 俺は大樹へと歩いて行く。
 そして、散乱している真実を目の当たりにした。
 そこには、パンパンに膨らんだ鞄と、冒険者用のコート、
 そして、女物の衣類があった。
「どうやら……先刻のキラーハウンドは、もともと人間の少女だったようだな」

……ああ……。

以下は野暮な解説ですが、キラーハウンドが発生したと見られる大樹というのは「ナユタの実が生っている巨木」と描写されています 。そして小説版で仲間になるキャラクターは章ごとに変わるのですが、今周では主人公はネムリと出逢っていません。

まさしくこれは、ゲームの設定を活かしつつ、小説版でなければできない演出。いやぁ……やられました……。

 俺は大地に根ざしたようにその場を動かず、魔王が繰り出す全ての攻撃を受け凌いだ。

騎士スキル「グレートウォール」!使っているのは聖武具「大気の盾」です。まさに鉄壁。今周では武器となる聖武具は入手しておらず、魔王の結界はフリーダとデュークガルツが手数で削りきります。渋いぜ……。

そんな感じで、今周では例のアレで魔王との会話を成立させつつ、お互いに覚悟の上で決着へと導きます。一歩ずつだけど確実に前進。

……さて、魔王を倒しても物語は続きます。ここからが個人的に一番、片道勇者という作品が小説になったことの重みを実感するものでした。

 そこからの旅は穏やかなものだった。
 気の向くままに馬を走らせ、美しい景色が目にとまればそこで休息をとり、道中で採取した果実を口にしては他愛もない会話をして、陽が暮れれば野営地で眠った。
 楽しい旅だった。イーリスもフリーダも、この世界の些細な事柄に、いつも驚きと喜びを示してくれたし、俺が王国の蔵書で培った知識には金言の如く耳を傾けてくれた。

今周ではフリーダ健在のまま魔王を倒します。世界は(ひとまずは)平和になりますが、理力で存在を維持しているフリーダには、いずれ終わりが訪れます。「そのとき」が描かれる原作のエピローグも非常に沁みるのですが、小説版ではこれを更に膨らませ、そこに至るまでの「最後の日々」を、イーリスも交えて丁寧にエモーショナルに、冒険小説として考えると異例なまでのボリュームを割いて語り上げていました。

割とボロボロ泣きました。

第3章(冒険家)

1~2章の主人公は色々と違う面もありつつ基本的には実直なキャラクターでしたが、3章の主人公はかなりノリが軽い、お宝を求めて旅する冒険家。そして前世の記憶はかなり明確になってきていますが、まだ転生者の自覚みたいのはありません。

「あー、ゴメン。なんかね、昔からよくあるのよ。会ったことない人だったり、見たことない場所だったりに既視感めいたもの覚えちゃう上に、ぽんと言葉が出ちゃったりするの」

そんなわけで王城からの旅立ちについても「知ってる知ってる」って感じでサクサク進みます。ある程度周回を重ねた原作プレイヤーのノリともちょっとシンクロ、かも?

「勇者様、再び旅立ちの日を迎えたのですね。今こそ、預物をお返しいたしましょう」
 と、背に声をかけられた。 振り返ると、そこには若くて綺麗な──んでもって、どことなく神秘的な雰囲気をまとっているお姉さんがいた。うん。いたんだけど。けどね。
「ごめーん、今は長々と話してる時間ないのーっ! 貴方もさっさと逃げなさいねー」
 と、手を振るだけにとどめ、彼女からぎゅんと距離を取った。
「ちょ、ちょっと! 止まらなくてよかったの!? 何かくれるっぽい感じだったけど……?」
「いいのいいの。知らない人から何か貰って、それで冒険が簡単になったらつまらないじゃない」

こ、こいつ、次元倉庫縛り……だと……!

「要は世界滅亡の危機なのだろう? ならば飯代の礼として、俺も手を貸そう」

あ、アルバートかっけぇ……

「ネムリちゃん、ちょっと失礼するわよ!」
 私は繫いでいた彼女の手を引き寄せて、そのままお姫様抱っこの体勢を取る。
「きゃ……っ!?」
「ごめん、我慢して。私、こう見えても逃げ足だけは誰にも負けない自信があるの!」

冒険家スキル「ダッシュ」だ!

 かつてのぼくはここでネムリに体当たりをした。けれど、すぐにキラーハウンドの膂力の前に体勢を覆され、そしてまた──私を助けようとするアルバートパンティが、彼女の頭を吹き飛ばす斬り飛ばすのだろう。

ネムリを救えなかった過去の記憶と今この瞬間が重なるのをルビで表現。かっちょいい。そして「この身に宿る魂の記憶が私に新たな選択肢を与える」のです。

「時間稼ぎ、か……。恐らくは可能だろうが、少しばかり困ったな」

(中略)

「勢い余って、うっかり魔王を倒してしまっても、文句は言うなよ?」

あ、アルバートかっけぇ……(reprise)

と、そんなわけで、転移と転生という違いはあれども主人公同様に≪世界を渡る者≫であるアルバートの示唆により、いよいよ主人公は自らが転生者である可能性を認識。さらにこれもまたアルバートの言葉を起点として、魔王を倒すのとは別の道も見えてきます。

あれ、アルバートかなりキーパーソンじゃね?

第4章(勇者)

 ぼくは/俺は/私は──僕は、勇者だ。

満を持して、であります。幾千(幾千!?)もの転生を繰り返し、辿り付いた決戦の舞台。

流石にこれ以上のネタバレは控えます。月並みですが「ここから先は君の目で確かめよう!」というアレです。

ただ一つだけ、これまた原作の枠を超えた展開としてアツい点を述べて終わりましょう。

最終決戦、ゲームシステムがシミュレーションRPGになります

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